ハンター第一次試験
80km通過
脱落者1名
03.罪が罰を殺める
「見ろよ」
「おいおい…マジかこりゃ」
脱落者が1名出たが、ほぼ全員余裕でここまでやってきた。
しかし今。まさに目の前に現れたのは、とても急で上が見えない程長い階段だった。
それなのに試験管サトツは さらにペースを上げると言っているではないか。
しかも、普通に歩くような感じなのに この急な階段を二段飛ばしで登っていっている。
「レオリオ、大丈夫か!?」
上半身裸、そして首にネクタイ。
汗はダラダラ、息は荒い。
今のレオリオは誰が見ても変態に見える。
が しかし、近くを走っていたクラピカが心配そうに声をかける。
「おう!!見てのとーりだぜ!!なりふりかまわなきゃ まだまだいけることが分かったからな!!!」
元気に答えるレオリオ。
体力的には『大丈夫』ではないようだが、心の強さはこの試験を乗り越えられる程強いようだ。
ほっ とするクラピカをよそに、レオリオは一人で意味の分からないことを喚いている。
「フリチンになっても走るのさ―――!!!クラピカ!!!他人のふりするなら今のうちだぜ!!」
クラピカはそんなレオリオを見て フッと笑い、何を思ったのか自分の上着を脱ぎ捨てた。
「レオリオ。一つ聞いていいか?」
「へっ 体力消耗するぜ、無駄口はよ」
「ハンターになりたいのは本当に金目当てか?」
クラピカの問いかけを耳にした途端、レオリオが微かに反応した。
「違うな。ほんの数日の付き合いだがその位は分かる。確かにお前は態度は軽薄で頭も悪い」
「………(ムカツクヤローだぜ)」
「だが決して底が浅いとは思わない。金儲けだけが生きがいの人間は何人も見てきたが、お前はそいつらとは違うよ」
意味深長な言葉をつらつらと並べるクラピカ。
レオリオはというと、クラピカの言っていることがほぼ図星だったので何を言い返したらいいのか分からないでいた。
「ケッ。理屈っぽいヤローだぜ」
投げやりに放った言葉。
しかしクラピカからの返答はない。
「………オイ?」
「……緋の目」
「?」
「クルタ族が狙われた理由だ」
どうしたものかと声を掛けると、クラピカは そう一言呟いた。
長い長い階段を上りながら、鋭い目つきで語りだす。
「緋の目とはクルタ種族固有の特質を示す。感情が激しく昂ると、瞳が燃えるような深い緋色になるんだ。
その状態で死ぬと、緋色は褪せることなく瞳に刻まれたままになる。この緋の輝きは 世界七大美色の一つに数えられているほどだ」
「それで幻影旅団に襲われたわけか」
「………」
『幻影旅団』と口に出した途端、クラピカの額から一筋の汗が流れ落ちる。
「うち捨てられた同胞の亡骸からは一つ残らず目が奪い去られていた…。今でも彼らの暗い瞳が語りかけてくる………“無念だ”と…。
だから………幻影旅団を必ず捕らえてみせる!!!仲間達の目も全て取り返す!!!」
クラピカの目が一層鋭くなる。
無念が……悲しみが……話しを聞いている相手にも ひしひしと伝わってくる。
そんなクラピカを知って、レオリオは申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「…悪いな。オレにはお前の志望動機に答えられるような立派な理由はねーよ。オレの目的はやっぱり金さ」
真っ直ぐ前を見つめたまま答えるレオリオ。
それは、自分はクラピカのような立派な奴ではないと、自覚したからこその言葉だった。
しかしその言葉を聞いて、クラピカが怒鳴った。
「嘘をつくな!!!まさか本当に金でこの世の全てが買えるとでも思っているのか!?」
「買えるさ!!物はもちろん、夢も心もな!!!人の命だって金次第だ!!変えないモンなんか何もねぇ!!!」
さらに続くレオリオの穢れた言葉に、クラピカの声が一層キツくなる。
「許さんぞレオリオ!!撤回しろ!!」
「何故だ!?事実だぜ!!?金がありゃオレの友達は死ななかった!!!」
「………」
「…ッ!…………チッ」
レオリオは 思わず『友達』のことを口に出してしまい、顔を顰める。
クラピカが何も察していなければいいのだが、そうはいかないだろうと思うと思わず舌打ちしてしまう。
「……病気か?」
「………決して治らない病気じゃなかった。問題は法外な手術代さ!!!オレは単純だからな、医者になろうと思ったぜ。
友達と同じ病気の子供を治して“金なんかいらねェ”ってそのコの親に言ってやるのがオレの夢だった!!!」
でも……でもな、
「笑い話だぜ!!そんな医者になる為には さらに見たこともねェ大金がいるそうだ!!!」
だから助けられなかった
「分かったか!?金 金 金だ!!!オレは金が欲しいんだよ!!!!!金―――――ッ」
大声で叫びながら、先程よりも一層ペースを上げて走り出すレオリオ。
そんなレオリオをクラピカは、もう怒る理由がなかった。
地上への階段中間地点
脱落者37名
「いつの間にか一番前に来ちゃったね」
「うん。だってペース遅いんだもん」
「はぁ!?これで遅いっつーのか!?」
上から順に、ゴン・キルア・私。
会話の通り私達3人は、37名の脱落者が出るほど過酷だと思われるこの階段の先頭を走っていた。
すぐ目の前には試験管のサトツ。後ろを振り向けば今にも崩れ落ちそうな受験生達。
それなのにキルアは、このペースが『遅い』なんて文句を言っている。
私、正直キツイんだけど。
「こんなんじゃ逆に疲れちゃうよなー」
「ウソ!!マジで!?」
「は平気じゃないの?」
「あ!?あたりまえだろ!?」
「全然余裕そうに見えるけどな」
「どこがッ」
「汗もかいてないよ?」
「顔に出ないだけだッ」
「「………」」
言葉の割には元気そうな私を見て、怪訝な表情を浮かべる二人。
でも私、本当に持久力には自信ないのにな…。
「そういえばさ、はどうしてハンターになろうと思ったの?」
溜息をつき、一人でショックを受けていた時。
ふとゴンが思いついたように 私に問いかけてきた。
「オレ?オレはただ…仕事上の関係でハンターの資格が必要になっただけだよ」
「仕事上って?」
「あー、まあ…家庭の事情かな?」
これは本当のことだ。
私は今、家庭の事情でハンターの資格を取る為にこの試験を受けている。
家族の職業…ブラックリストハンターになる為に。
でももうあの家に戻る気はないけどね。
ハンターの資格を取って、家出するつもりだから。
「ゴンは何でなろうと思ったんだ?」
逆に私もゴンに聞き返す。
キルアも興味有り気にゴンを見つめる。
「オレの親父がハンターをやってるんだ。親父みたいなハンターになるのが目標だよ」
そう語るゴンの瞳は、輝いていた。
「どんなハンター?親父って」
「分からない!」
しかし、父親がどんなハンターかも理解していないゴンを知り、キルアが笑う。
「お前それ、変じゃん!」
「そお?オレ 生まれてすぐおばさんの家で育てられたから親父は写真でしか知らないんだ。
でも何年か前、カイトっていう人と出会って親父のこと色々教えてもらえた」
カイト…どこかで聞いたことのあるような気がした。
しかしあまり気を留めず、さらに続くゴンの回想に耳を貸す。
『ルルカ文明遺跡の発見
二首オオカミの繁殖法の確立
コンゴ金脈の発掘
クート盗賊団の壊滅
ジンさんのハントは幅広くて制限がない。
ジンさんは面倒くさがって申請してないが、実はトリプルハンターと比較してもなんら遜色がない』
「それって凄いことなのか?」
ゴンの父親 ジンのことを聞いたキルアは、さらに問いかける。
しかしゴンは首を横に振った。
「ううん、分からない」
その答えを聞き、キルアは呆れたようにズッこける真似をしてみたが、ゴンの言葉はまだ続いた。
「ただ、カイトは自分のことみたく自慢気にとても嬉しそうに話してくれた。それを見て思ったんだ…」
「オレも親父みたいなハンターになりたいって」
力強く、綺麗に輝く希望に満ちたその瞳を
私は直視することができなかった
「見ろ!!!出口だ!!!」
To be continued...